音が変わった日
- Reiko Yamazaki
- 6月22日
- 読了時間: 2分
いつものように帰りの電車の中で、お気に入りのピアノ曲を聴いていた。毎日聴いている馴染みの深い曲だ。イヤホンから流れるメロディに身を委ね、頭の中でそのフレーズを記憶していた。このメロディをピアノで弾いてみよう。そんなことを考えながら、音楽に浸っていた。
家に帰って、記憶したメロディを確認しようと楽譜を開いた。しかし、何かが違う。明らかに音が違うのだ。
「あれ?音違う。間違えたのか?」
手を止めて、もう一度聴き直した。しかし、その音は明らかにシの音だった。混乱して、改めて正確な音程を確認した。結果は衝撃的だった。すべての音が半音低く聞こえている。
「こんなに狂うものだろうか」
そんな疑問を抱きながらも、一晩寝れば治るだろうと楽観的に考えていた。
翌日、同じ曲を聴いてみた。期待を込めて耳を澄ませる。しかし、結果は同じだった。すべての音が半音低く聞こえる。まるで世界全体の音程が下がってしまったかのようだ。この時点で確信した。問題は自分の耳にあるのではないか。
今度はスマートフォンでピアノアプリを開いた。画面上の鍵盤を押してみる。ドの鍵盤を押しているのに、やはり半音低く聞こえる。すべてが半音下がって聞こえている。
自分の聴覚に何が起こったのか、様々な思いが頭を駆け巡った。
しかし、日常生活に支障はない。音楽は以前と変わらず聞こえる。ただ、音程が全体的に下がっているだけなのだ。それから数週間が経った。
不思議なことに、この新しい音の世界に慣れ始めていた。決して不快ではない。
以前は音がズレることなど一度もなかったので、最初は違和感があった。しかし、人間の適応力は素晴らしいもので、今では、この半音下がった世界が自分にとっての「標準」になりつつある。
今のところ、この説明のつかない不思議な出来事を受け入れようと思っている。
人生には時として、説明のつかない現象が起こる。それを恐れるのではなく、受け入れて向き合い、この奇妙で興味深い聴覚の変化が、私にどの様な影響があるか。
しばらくは、この状況を見守りたい。
