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失敗から生まれるもの

  • Reiko Yamazaki
  • 6月20日
  • 読了時間: 3分

 スタジオで制作している時、頭の中にはひとつの技法が鮮明に浮かんでいた。箔を使った新しいアプローチ。光の反射と下地との相性を考えた構想でした。


しかし、現実は甘くない。


理論上は上手くいくと思っていたその技法は、実際に手を動かしてみると簡単にはいかなかった。絵具が期待通りに定着せず、光の反射も計算とは異なる。何度試しても、頭の中にあったイメージは現実のものにならなかった。


「失敗した」





確かに箔では思うような結果が得られなかった。しかし、この技法の根本的なアイデアは間違っていない。もし画材を変えれば、もし別の素材を使えば、きっとこの発想は生きるはず。

あの絵具なら、あの素材ならと考えると、今日の「失敗」は決して無駄ではないし、むしろ、新しい表現への第一歩なのかもしれない。

失敗はそこでやめてしまえば終わりだが、継続すれば過程だと思う。

この気づきが、心の中の重いものを軽やかなものに変えてくれた。



思い返してみれば、10年前の私と今の私では、使っている画材も技法も全く違っている。当時は知らなかった素材が今では当たり前のように手に入り、Instagramでは日々、世界中のアーティストの作品や技法をリアルタイムで見ることができる。

画材メーカーも新しい製品を次々と開発し、私たちクリエイターの表現の幅を広げてくれている。



新しい画材や技法に出会うたび、私は子供のように興奮する。しかし、同時に慎重にもならざるを得ないことがある。新しいものを取り入れる時は、何度も実験を重ねる。論文を読み漁り、時にはメーカーの技術者の方に直接質問することもある。

なぜなら、失敗から学んだ大切な教訓があるからだ。


どんなに最高級の絵具を使い、どんなに正しい技法で描いても、保存環境が悪ければ作品はたちまち劣化してしまう。これほど心が痛むことはない。


作品は作家の手を離れた瞬間から、環境との闘いが始まる。だからこそ、私たちは素材の特性を深く理解し、最新の技術についても学び続けなければならない。



10年前と今では、環境も情報も様変わりしている。 

新しい画材の情報は瞬時に世界を駆け巡り、革新的な保存技術の研究成果も次々と発表される。

この様々な情報の中で大切なのは、常にアンテナを張り巡らせておくことかもしれない。そして、新しい情報や技術を受け入れる懐の広さを持つことが大切だと感じている。昔は正しいとされていたことが、間違っていることもある。


でも、それらを正しく判断する基準は実績と研究なしには難しい。


そして、最後に選択するのは自分自身。


時には間違いもある。


今日の箔の「失敗」も、きっと明日への糧になる。新しい画材との出会いで、思いもよらない表現が生まれるかもしれない。最新の研究で、作品の永続性を高める方法が見つかるかもしれない。



窓から差し込んだ光が、今日使った箔の破片を美しく照らしている。

また新しい実験を始めよう。今度は別の画材で、今日のアイデアを形にしてみよう。そして、その結果がどうであれ、それもまた新しい可能性になる。

制作は失敗と成功を重ねながら、常に変化し続ける旅なのかもしれない。その旅路で出会う全ての経験が、やがて大きな作品となって花開く日を信じて。

私は人より時間がかかると幼い頃から言われてきた。でも、じっくり時間を掛ける方が合っている。

 


簡単にはできないから面白い。

 
 

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